BACK ジョージアンズドアー  (パコット通り)NEXT ダブリンのタクシー             

 レソン通りの手前に、ホテル&レストラン「グレイ・ドア−」がある。道路に面した大きいガラス窓から、中年のカップルが座っている。周辺を一回りしてからこのレストランに入ろうと決めた。「綺麗なドアー」の写真を撮りたいが少々薄暗い。「ペンキ」で塗られたカラフルなドア−は、古い煉瓦(石)の壁に似合っている。この調和は広い石畳みの歩道と静かな街だからだろう。ギネスが僕を呼んでいる。折り返してペムブロ−ク通りの入り口に戻って来た。グレイ・ドア−の前に新しい中型の豪華な「観光バス」が止まっている。30分前の情景の違いは、このバスが駐車していることと暗くなった事だけだ。「まさか、団体さんが観光バスでレストランに?」とバスに近づいた。エンジンはすでに止まっていて運転手も乗客もいない。2階から上はホテルできれいな窓ガラスの部屋になっている。入口のドア−は開きっぱなしになっている。中に入ると右手に受け付けがある。落ちついた豪華な雰囲気が漂う。「少々高い」と覚悟した、ダブリン最後の晩餐だ。奥は広いフロア−で3台の長いテ−ブルが壁に沿って並んでいる。向かい会いで30人ほど座れる。高い天井から、大きいシャンデリアが黄白色の穏やかな光を放っている。そこは団体用のテーブルのようだ。

 手前左手の部屋は、2人〜5人用の木調のテ−ブルが数卓黒光りしている。全てに白いテ−ブルクロスが掛けられている。壁と天井からの落ち着いたスポットライトが、小さい花瓶と一輪の花を浮かび上がらしている。「何の派手さもないホテルの外見」、一歩中に入ると頑固に豪華でシックに品がある。これもダブリンの姿だろう。黒いス−ツにチョウネクタイをした中年の受付係が応対してくれた。彼に「一人です」と告げると、ウェ−トレスが2人用の丸テ−ブルに案内してくれた。テーブルは、団体さんのフロア−と壁と空間で仕切られていて、静かでムード満点。奥で30人程の熟年男女が楽しそうに食事をしている。彼らが「観光バス」の人達のようだ。ビ−ルやワインを飲みながら会話を楽しんでいる。大声ではしゃいでいる者はいない。横のテ−ブルで二組の中年のカップルが食事をしている。彼らに会釈をしてからテ−ブル座った。一人旅は時には人間が恋しくなる。メニューを持って来た若いウエイターにギネスをお願いした。ディナ−は基本的には5コ−スになっている。ビーフステーキのメインデッシュの形で注文した。

 なかなか料理がこない、ビールだけでも先にほしい。「ギネス、ギネス・・・」と喉から呟いた。ウエイトレスが忙しそうに奥に向かって料理を運んでいる。遅いのは団体客の料理に追われているようだ。しばらくして若いボ−イがギネスと料理を持って来た。多少赤ら顔で「都会ずれ」のない清純そうな若者だ。スッラとしていて少しジェ−ムス・デイ−ンに似ている。ビールはコクのある黒色でまろやかな甘みがあり、苦みはスッキリしている。料理と器があまりにも綺麗に調和している。写真を撮りたくて、ボ−イに「料理の写真を撮っていいですか」と了解を求めた。彼は一瞬ビックリして目を「パチクリ」した。しかし、気を取り直して「お取りください。あなたはシェフなのですか」と逆に真剣な顔で聞かれてしまった。「とても料理が綺麗だから・・・」と答えると、その言葉に安心したのかにこやかに戻って行った。テキパキとした好感のもてる青年だ。ビ−フステ−キは直径は8cmぐらいの円形で厚さが5cm程ある。ステ−キの上には自慢のソ−スが掛けられている。これほど分厚いステ−キは食べた事がない。周りにタマネギや人参、それに赤やグリ−ンの野菜が並べられている。ウエルダンを頼んだが、分厚いので中迄焼けているだろうかと心配になった。端から2cm位の所を下まで切ってみた、見事に焼けていた。 追加したギネスを飲み干して店を出た。サ−ビス料金を含めて総額24ポンド(約5000円)であった。パンフレットに「ホテル&レストラン」、「シングル70ポンド、ダブル90ポンド」と料金が示されている。外はすでに暗く街灯が静かな石の街を照らしている。人も車もいない。